2年前から人事部門の支援をしている会社が、親会社の都合により清算することになった。私の窓口であり一緒に人事部門を支えてきた担当者の方も親会社には頼らず、転職することになった、とその上司から聞き、少しでも協力してあげられれば、との思いから連絡をとった。 その担当者は女性で30歳の既婚者。現在の会社は2社目。前職も成果主義の強い会社で、残業を厭わず、懸命に働いていたそうだ。そして現在の会社でも社長が替わるたびに人事制度の変更を余儀なくされる状況がありながらも、懸命に現場が回るようにと休日も返上して頑張ってきた。打合せのたびに愚痴は出るものの、表情は常に明るくプラス思考で行動するので、こちらも何とかしてあげたいという気持ちで2年間支援してきた。

そして数日後、会社近くの喫茶店で待ち合わせをした。私には、人事を募集している知り合いの企業があるので紹介しよう、との思いもあった。 アポイント当日、彼女から開口一番「就職先が決まりました」との報告が。
私もホッとして、「おめでとう!どんな企業に決めたの?」
「意外に思わないでくださいね、聞いて笑わないでくださいね」
「おめでたいのにそんな失礼なことはしませんよ」
「実は・・・」
聞けば、歴史の古い機械メーカーで海外でも評価が高く業績も安定しているらしい。そして人事制度は処遇も含めて年功序列的で、課長になるのも40代後半から 50代、部長は50代後半だそうで、ほのぼのしている社風のようだ。彼女が今まで働いてきた会社の風土と180゜違う。だから「笑わないで下さいね」と私に念を押したのだろう。 でも理由を聞いて納得できた。
「今までは実力主義の会社で忙しく働くことで報酬も含め自己実現を図ってきました。でもこれを機会に、自分と家族のこれからの人生設計を考え、報酬より女性が長く勤められる環境を持った会社を選ぼうと思って面接を受けに行きました」 昔の彼女を知る友人は企業名を聞いて皆驚いたそうだ。あんなに忙しく働くことにやりがいを感じていた人がと。

でも彼女のいい意味での覚悟を聞いて安心した。聞けば今まではご主人よりも年収は高かったという。それでも報酬よりも出産しても安心して長く働ける環境を彼女は選んだ。彼女のことだからほのぼのした会社でも仕事に手は抜かないし、成果主義でなくても充実感はきっと見つけるだろうと思う。 「是非25年後部長になって、私をコンサルとして使ってくださいネ、私が生きていればの話しだけど(笑)」と半分冗談半分本気のメッセージで、彼女の船出を見送った。